2013年10月22日火曜日

「尖閣デモ」がアジアを激変させた:ソ連崩壊、中国急成長に継ぐ歴史イベントか?




 こういうことがあるもんだ、とつくづく思うのが
 昨年の中国での尖閣デモ(釣魚島奪還反日デモ)。
 これで、アジアの政治様相がガラリと変わってしまった。

①.中国は国内不安定となり、引き締めにやっきとなり
②.日本は2/3世紀ぶりに蘇り、自己主張をはじめ
③.韓国は五面楚歌で急速に沈みつつあり
④.ASEAN諸国は中国の恫喝外交から手みやげ外交への変わり身にウキウキし
⑤.アメリカは日本にアジアを丸投げして、自国の処理にかかりっきりになり
⑥.イギリスとオーストラリアは日本支持を表明し
⑦.ロシアは日露平和条約を模索する

 たった1年で、アジア全体の姿がこれほどまでに変わるとは誰も思わなかっただろう。
 原因はたった一つのことにすぎない。
 始まったときは日本滅亡のキッカケになるかと危惧した人も多い。
 しかし、1年を経て出てきた結果はまるで反対。
 デモを企画した側に圧倒的に不利に動いている。
 この問題は中国共産党の存続の可否にまで進んでしまっている
 ここまでに至るとは思いもよらなかった。
 歴史とはわからぬものである。
 ちなみに、このデモの評価は現在

 実際のところ、(反日デモなどの)中国民間による感情的な行動は、
 日本右翼にさらなる挑発の口実を与えるものにしかならなかった

ということでとことん否定されている。
 悲しくむなしいことであるが、それが今の姿である。
 それがゆえに、今年の一周年記念行事はまるで企画されることはなかった
 記念行事が実行されたとしたら「中国民間による感情的な行動」が当局にどんな厄災をもたらすか、という想像に怯えたということであろう。
 尖閣デモは今では、中国の喉首につきつけられた匕首のような作用をしている。


JB Press 2013.10.21(月)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38966

アジア、中東、ロシアを駆け回る安倍首相
急がれる外交の立て直し、
中韓に擦り寄る必要はない

 10月15日にようやく臨時国会が始まった。
 経済再生や復興の加速化など、安倍晋三首相の所信表明演説は、なかなか力強いものであった。

 成長戦略の実行や社会保障改革と財政再建、消費税増税、福島第一原発の汚染水問題だけでなく、小泉純一郎元首相が提起したことにより俄然注目を集め始めた原発ゼロ問題など、経済関係だけでも重要課題が目白押しの国会である。

■「積極的平和主義」と憲法改正

 所信表明演説では、外交・安全保障については多くは語られなかったが、重要な提起がなされた。

 安倍首相は、先の国連総会演説でも述べたことだが、
 「単に国際協調という『言葉』を唱えるだけでなく、国際協調主義に基づき、積極的に世界の平和と安定に貢献する国にならなければなりません。
 『積極的平和主義』こそが、我が国が背負うべき21世紀の看板であると信じます」
と述べ、新しい外交・安全保障政策の概念を提起した。

 「積極的平和主義」を推進していくうえで鍵を握るのが、現憲法下での集団的自衛権の行使容認や国家安全保障会議の創設であり、その先にある憲法改正というのが安倍首相の考え方である。

 安倍首相が言うように米ソ対決の冷戦構造が崩れて20年以上が経過し、世界は大きく変わった。
 なかでも中国の経済、軍事面での台頭は目を見張るものがある。
 北朝鮮は核実験を繰り返し行い、核兵器と長距離弾道ミサイルの開発に成功している。
 他方、アメリカの力は間違いなく低下している。
 日米同盟を基軸にするとしても、平和の確保は「アメリカ頼り」というだけでは、ことは済まなくなっている。

 野党にも安倍首相が言うように、この「現実を直視」した政党になり、「積極的平和主義」の内実を豊かなものにしていくような論戦を期待したいものだが、それはやはりないものねだりのようだ。

■曲解に満ちた民主党・海江田代表の質問

 私も参議院議員時代に本会議での代表質問に立ったことがあるが、本会議は予算委員会の一問一答の論戦とは違い、一方通行の論戦であるため、聞いている議員や国民がどちらに筋が通っており、どちらが論理で勝っているかを際立たせることによって、その論戦がどちらに優勢であったかの評価がなされる。
 したがって、揚げ足取りのような質問や真意を曲解したような質問は、絶対に成功しないどころか、軽くあしらわれて小馬鹿にされるだけとなる。

 その典型が民主党の海江田万里代表の質問だった。

 安倍首相が、訪米中にハドソン研究所での講演で、「私を右翼の軍国主義者と呼びたければどうぞ」と発言したことを取り上げ、
 「発言に非常に驚いた。積極的平和主義という言葉を使うが、平和を名目に軍事力をもっと前面に出したいのだ、という受け止めが多い」
と批判したのだ。
 曲解そのものである。

 安倍首相のこの発言は、次のような文脈で述べたのだ。
 「日本のすぐそばに軍事支出が少なくとも日本の2倍で毎年10%以上の伸びを20年以上続けている国がある。
 日本は11年ぶりに防衛費を増額したが、たった0.8%に過ぎない。
 私を右翼の軍国主義者と呼びたいのであれば、そう呼んでいただきたいものだ」

 読めば明白だ。
 安倍首相が答弁で述べたように、中国の軍事費の伸びを念頭に、
 「我が国は決して軍国主義とは言えないことを強調するために、皮肉を込めてあえて用いた」
に過ぎないのだ。

 またナチス・ドイツのヒトラーを念頭に、安倍首相が多用した「意志の力」という言葉を取り上げ、「独裁者を思い出させる」と批判した。

 確かにナチスのプロパガンダ映画に『意志の力』というのがある。
 しかし、これは揚げ足取りである。個人であれ、集団であれ、あるいは政治であれ、「強い意志」がなければ困難を乗り越えることはできない。
 「脱官僚政治」を掲げた民主党政権が、官僚の抵抗に遭い、右往左往したのは「意志の力」が欠けていたからである。
 「意志の力」が欠落した政治などありえない。

■外交・安全保障で選挙に勝利した安倍政権

 安倍首相と言えば、アベノミクスを想起するだろうが、外交面でもこの間、特筆すべきものがあった。
 首相就任からわずか「10カ月で23カ国を訪問」し、
 延べ110回以上の首脳会談を行ったというのも稀有なことである。

 外交・安全保障は、選挙の争点にはならないというのが、日本政治では長らく常識となってきた。
 だがこの常識を初めて覆したのが、実は2012年の衆議院選挙であった。

 民主党政権の下で、日米関係は大きく毀損され、竹島問題や尖閣諸島問題で有効な対策を取ることができず、菅直人首相(当時)などは中国首脳の前で小さくなっているという無様な姿をさらけ出してしまった。

 中国は図に乗って、尖閣諸島周辺で領海侵犯や領空侵犯を繰り返すようになってしまった。
 違法操業をしながら、見つかると海上保安庁の巡視船に体当たりするという無法を行った中国人船長を逮捕しながら、何の罰則も与えずに解放するという弱腰外交も国民から強い批判を浴びた。
 北朝鮮の長距離ミサイルの発射も国民にとって大きな脅威になっている。

 民主党政権には、外交・安全保障はまかせられない、というのが国民多数の思いになっていた。

 この時に、「日本を、取り戻す。」というスローガンを掲げ、外交・安全保障の立て直しを掲げて選挙に臨んだのが、安倍自民党であった。
 国民の中にある反中感情、反韓感情にも依拠して、自民党は大勝を収めたのだった。

 外交や安全保障に民意が反映された、稀有な選挙が2012年の衆議院選挙であったということだ。

■地球儀全体を俯瞰した外交戦略

 安倍外交の特徴の1つに、所信表明演説でも述べたことだが、
 「地球儀全体を俯瞰する視点」
というのがある。

 安倍首相は、就任直後の初の外遊先として、ベトナム、タイ、インドネシアを選んだ。
 今年に入っても岸田文雄外相をフィリピン、シンガポール、ブルネイに派遣した。
 明らかにASEAN重視であり、中国包囲網を連想させることにより、
 間接的に中国に圧力をかける狙い
があったことは間違いない。

 「対ASEAN外交5原則」(「安倍ドクトリン」)を発表したが、その1項目には、「『力』ではなく『法』が支配する。
 自由で開かれた海洋は『公共財』であり、これをASEAN諸国と共に全力で守る」とある。
 ベトナムやフィリピンなどは、南沙諸島など南シナ海の諸島の領有権を巡って中国と厳しい係争を続けており、中国による「力」の支配に必死に抗しているだけに、安倍ドクトリンはこれらの国々に大きな勇気を与えるものであった。

 1957年5月、安倍首相の祖父である岸信介首相(当時)も訪米に先立って、首相就任後初の外遊にビルマ、インド、パキスタン、セイロン、タイ、台湾の6カ国を歴訪し、訪米後にはカンボジア、ラオス、マレーシア、シンガポール、インドネシアなど9カ国を訪問している。

 これについて「私は総理としてアメリカに行くことを考えていた。
 それには東南アジアを先に回って、アメリカと交渉(日米安保条約の改定交渉)する場合に、孤立した日本ということでなしに、アジアを代表する日本にならなければならない、という考えで行ったわけです」(「外交 Vol.18」所載「岸と安倍―外交路線の継承と断絶」岩見隆夫著)と語っている。

 鳩山由紀夫元首相は、「東アジア共同体」などという、ありえない構想に執心していたようだが、安倍外交は、きちんとアジアに軸足を置いている。
 TPP(環太平洋経済連携協定)への参加も、「中国に主導権を握られる前に、環太平洋の新たな秩序づくりで先手を打つという点にある」(「産経新聞」3月16日付)ことは明白である。

 アジアだけではない。
 サウジアラビアやアラブ首長国連邦、トルコなど中東諸国も訪問し、資源の安定的調達の手も打っている。
 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領とは、4回もの首脳会談を行ってきた。北方領土返還交渉でも、進展に期待を持たせてくれるものだ。

■日本から中韓に首脳会談を持ちかける必要はない

 プーチンとは4回、バラク・オバマ米大統領とは2回の首脳会談を行った安倍首相だが、中国の習近平国家主席、韓国の朴槿恵大統領とは、まだ一度も首脳会談を行っていない。

 中国、韓国と友好的な関係を築くことはもちろん重要である。
 だが日本側から頭を下げて、関係改善を目指す必要はまったくない。
 頭を垂れた外交は、必ず禍根を残すからだ。

 韓国朴大統領が、
 「日本が積極的に変わらなければ、首脳会談は難しい」
と述べたことに対し、菅義偉官房長官は、
 「今のところ緊急な課題もない」
と軽くいなし、日本側から首脳会談を呼びかける気などないことを明言した。
 賢明な発言、対応である。

 中国との関係も、尖閣諸島の問題はあるが、日本の領土であり、領有していることは疑いもないのであり、何も日本側から急いで首脳会談を持ちかける必要はない。
 地球儀全体を俯瞰しながら、泰然自若とした今の外交を進めてもらいたい。

筆坂 秀世 Hideyo Fudesaka
1948年兵庫県生まれ。元参議院議員、政治評論家。著書に『日本共産党』、共著に『自民党はなぜ潰れないのか 激動する政治の読み方』『参議院なんかいらない』『私たち、日本共産党の味方です』『どん底の流儀』などがある。